■がんと 

 どう向き合うのか

 

がんは不治の病と言われていた時代から、治る時代を迎えていると言えます。

医学の進歩によって、医療技術は大きく前進し、いまや「がん=死」ではありません。

がんの治癒を表す5年生存率は日本のがん患者全体の6割近くにまで伸びてきているのですから。しかし、4割を超える人はいまだ治らないことを考えると、恐ろしい病であることに変わりはありません。

 

■診断された時からの緩和ケアが重要

 

がんと診断された時の衝撃は、計り知れない不安や恐怖が伴います。

「なぜ、自分がこんな目に遭うのか」という怒りや将来への不安、絶望など、患者や家族はさまざまな大きな痛みに直面します。

がん専門医によると、がんの患者の多くは、大きく4つの苦痛を伴うとされています。

「神経の圧迫や骨転移などの身体的な苦痛」「不安や不眠などの精神的な苦痛」「仕事や経済的な問題に対する社会的な苦痛」「人生の意味や死への恐怖などの心の苦痛」です。

 

身体的な苦痛は、モルヒネなど医療用麻薬の適正な使用によって、9割以上を取り除くことができるようになっています。痛みが取れると、睡眠が確保でき、食欲も増し、今までと変わらない日々を過ごすことができますので、正しい緩和ケアを診断された時から受けることが重要です。


ところが、日本のがん治療はまだ、身体的な苦痛にさえ、十分に対応しているとはいえない病院が多いのが実態です。日本の医療用麻薬の使用量は増加傾向にはあるものの、欧米先進諸国と比較すると依然少なく、あまり使われていない傾向があり、中毒になるといった誤解もあります。しかも、精神的・社会的苦痛などへの適切なケアは不十分です。その主な原因は医師が緩和ケアをきちんと学ぶ機会が少なかったことにあります。

 

 

このため厚生労働省は、全てのがん診療に携わる医師(約10万人)への緩和ケアの知識習得を進めており、現在、5万人を超える医師が研修を終えています

緩和ケアは、患者の苦痛を総合的に和らげることが目的です。告知の瞬間から緩和ケアを始め、主治医や精神科医、看護師と共に、薬剤師、カウンセラー、ソーシャルワーカーなどが一体的に支援する「緩和ケアチーム」が理想的であると言われています。

 

厚労省のがん対策推進協議会の門田守人会長は「死を忘れた日本人が多い」ことが、がん治療の「キュア(完治)」と「ケア(症状の緩和)」のバランスを狂わせていると指摘しています。がんが治っても治らなくても命には限りがあります。治療効果や後遺症を十分に吟味し、個人の人生にふさわしい治療を賢く選択すべきだと言えます。


緩和ケアは、多くの患者に「生きるための力」を与えています。がん診断時から緩和ケアを組み入れ、緩和ケアチームとしての医療体制整備を早急に図るべきです。